新しい検索ワードを探す旅
私は5歳か6歳の時に、父親のおさがりとして、兄と2人で共同で使う用のパソコン(windows2000だった気がする)を1台与えられて以来、今日までパソコンとインターネットにどっぷりハマっている。
最初はお絵かきソフトやCD-ROMからインストールして遊ぶ単純なゲームだけだったけど、外部につながっているインターネットに触れるようになったのは小学校に上がってから。
記憶にある限りでは、2001年にオープンしたテキストサイト「僕の見た秩序」や、webコンテンツにアニメーション的な動きをもたらした”Flash”を利用したコンテンツを集めた「おもしろフラッシュ倉庫」がその入り口だったと思う。
(※Flashの開発元のAdobeは2020年12月31日にFlashのサポートを終了。2021年1月12日から順次、Flashを使用したコンテンツの再生をブロックしていくとのこと)
当時は2000年にGoogleが日本語の検索サービスを開始したばかり。私がGoogleの検索窓に初めて触れてから今年で21年になる。
インターネット、特にその入口である”検索エンジン”は、入力したワードに関連のあるサイトを一覧で表示してくれて、誰かがアップロードした情報に簡単にアクセスでき、小学生であった私の興味や感性や世界を大いに広げてくれた。
さて、あれから私も人生経験を積み、世のwebサービスも大いに発展した。私は今も相変わらず、というより当時よりもずっと深くインターネットにハマっているわけだけど、今のインターネットとの付き合い方を考え直す、きっかけになる一冊を読んだ。幻冬舎から出ている、東浩紀さん著の「弱いつながり 検索ワードを探す旅」である。
インターネットが大好きな私にとって、「新しい検索ワードを探す」とは魅力的なタイトルだったので、すぐにこの本を手に取り、数日のうちに読了した。
《弱いつながり》には、大まかに以下のようなことが書かれていると私は解釈した。
①人の人間性は、本人を取り巻く環境から作られる。
②人は、本人を取り巻く環境から得る情報を入力にして出力(行動、考え、発想)をする。
③すなわち、その人の行動や考えの限界は、その人の日常的な環境(行動範囲、接する人々、閲覧するwebサービス等の組み合わせ)の範囲にとどまる。
④検索エンジンを使う時、自分を取り巻く環境の中で興味を持ったものだけについて検索し、さらにその検索ワードすら、検索サービスの予測変換に従っている。
⑤この限界を超える方法は一つ。「旅」によって物理的に自分の環境を変えることである。検索サービスが予測できない言葉で検索しよう。
⑥環境が変われば、検索エンジンの検索窓に入力する検索ワードも必然的に変わり、新たな情報やモノに出会える。
......なるほど。
私自身の普段の生活の思い返してみると、思い当たるところがいくつかある。
《弱いつながり》の中でも触れられているけど、最近は「ネットサーフィン」という言葉も聞かなくなった。
私もかつては興味のある単語を検索窓に入力して検索し、検索結果に出てきたものをとにかく上から順番に眺めて、さらに眺めた先のサイトの中で気になるものがあれば、それについてさらに検索してひたすらサイトを見ていく...というような経験をしていた。サイトの善し悪しもよく分かっていなかったので、とにかくひたすら、あらゆるサイトを眺めていた。
そんな子供時代に比べると、今はまったくといっていいほどにネットサーフィンをしない。いつも、お気に入り登録している同じwebサービスで情報を得て、同じSNSのアカウントたちの更新を楽しみに待ち、休みの日や仕事帰りに外食をするときも、大抵気に入ったお店で、大抵気に入ったメニューを食べている。
「新しい検索ワード」には私も無意識のうちに飢えているのかもしれない。旅をするというのは、「新しい検索ワード」を手に入れるきっかけとしては一理あるだろうとは思う。
しかし、私は《弱いつながり》の主張に対し、ひとつの疑問も浮かんでいた。
これだ。
旅をする前にまったくなんの検索もしないという人は少数派だと思う。
誰だって、旅をするとなれば、少なからず現地の観光名所や美味しいお店くらいは調べていくはず。そもそも、地域を決めてから行きたい名所やお店を決めるという順番よりも、行きたい名所やお店がそこにあるからその地域に行く、という順番であることが圧倒的に多いはずだ。
であるならば、旅先での体験は、もともと検索していて”既に知っている情報”を、本物を見て(食べて)確認しに行く、体験しに行くという作業になりそうなものだ。
しかし《弱いつながり》では、旅に出る前の情報収集はもちろんだが、実際その現地に行くと、そこで経験したことが記憶に沁みていくにつれて、新たな「知りたい」欲望が出てきて、旅をしなかったら検索することがなかったであろう、新しい検索ワードで検索することになる、と語っている。
そして、その筆者の主張の根拠のひとつに、筆者の実体験を挙げている。例えば、筆者が1990年代に訪れたアウシュヴィッツの収容所、2013年に訪れたチェルノブイリ、長いお休みの折にご家族と出かけられた海外旅行など。
とても強烈な素材で、貴重なご経験談を前にして、私は勢いのままに納得されそうになってしまう。
しかし、書かれていたことをそのまま鵜呑みにするのではなく、自分サイズに嚙み砕いて腹に落とし込んでこそ、読書のし甲斐があるというもの。この本を読んだ感想として、私は全体的に共感する部分が多かった。けれども、本当に我が身の体験として理解しなくては、この本を理解したことにならないのではないか。
そう、ならば旅へ出かけよう。
旅へ出て確かめよう。
《この記事について》
・この記事は、2020年6月~2020年12月の、非常事態宣言解除後~再発出前の期間に撮影、取材した記事です。
・撮影、取材は当ブログの管理人1人のみで行い、ソーシャルディスタンスの確保、こまめな消毒等、一般的な感染症対策を実施した上で撮影を行っています。
・各地域の非常事態宣言に関する最新の状況は、各自治体のHP等をご確認下さい。
【旅に出る準備をするぞ】
今回はタイミングよく、西日本の某所で仕事をする機会が訪れた。
そこで、その仕事が終わった後に西の大都市、大阪へ寄ることにした。
大阪、私は小さいときに一度家族旅行でUSJに行ったことがあるのだけど、小学校に上がっていたかどうかという年齢の時だし、おそらくUSJ周辺しか移動しなかったので、市街を歩いた記憶が全くない。だから今回が初大阪みたいなものだ。
仕事の都合もあるので、今回のスケジュールは以下の通りとなった。
日程的に2日目中には帰ってこないと翌日の仕事に間に合わなくなってしまうので、観光できるのはやや短めだけど、2日目の日中となった。1日目の夜もせっかくなら美味しいものを食べたいところだ。
観光できそうな施設の開館時間は大体午前10時くらいが多いだろうから、観光できる時間は10時~16時くらい。およそ6時間。
私は大阪に行こうと決めた時点で、どちらかは絶対行きたいという観光の候補を2つ思いついていた。
私は学生時代に学芸員課程を専攻して学芸員資格を取ったほどに美術館や博物館が好きなので、候補のひとつは、”みんぱく”の愛称で親しまれる『国立民族学博物館』。もうひとつは、JR大阪駅から徒歩7分、梅田スカイビルの27階にある『絹谷幸二 天空美術館』。
みんぱくは移動時間が結構かかってしまう上、とても半日では周りきれないほどの広さと展示物の数があるということで、今回は2日目の日中は梅田スカイビルと、その中にある『絹谷幸二天空美術館』に行くことにした。
(ここを観光の目的地に決めたとき、《弱いつながり》に書いてあった「その人の行動や考えの限界は、その人の日常的な環境(行動範囲、接する人々、閲覧するwebサービス等の組み合わせ)の範囲にとどまる。」ということが私の脳内を縦横無尽に駆け巡ったけど、私は気にしなかった。)
1日目の夜は、仕事を頑張ったご褒美と、あと、私はいままで中華のちゃんとしたコースというのを食べたことが無かったので奮発して、美味しいと噂の中華屋さん、梅田スカイビルの39階にある『燦宮(サングウ)』のコースを予約した。
私が大阪へ行くことが無ければ、私はGoogleの検索窓に「梅田スカイビル レストラン」という文字を打ち込むことは一生無かっただろうから、既に物理的に場所を変えることで私は新しい検索ワードをいくつか獲得している。さらなる良い出会いがあるだろうかと期待が膨らむ。
というわけで宿泊場所も予約し、以上を踏まえて今回の旅のスケジュールは以下のようになった。
1日目夕方:仕事を終えた後、大阪市街へ移動、大阪エクセルホテル東急にチェックイン。
1日目夜:梅田スカイビルに移動し、中華屋さん『燦宮』で夕飯を食べる。ホテルへ戻り一泊。
2日目朝~昼:梅田スカイビルへ移動し、『絹谷幸二 天空美術館』を鑑賞する。梅田スカイビル周辺で昼食を食べる。
2日目昼~夕方:大阪駅周辺をぶらぶらする。
2日目夕方~夜:大阪から帰宅する。
2日目の午後はバッファだ。《弱いつながり》では偶然の出会いというノイズの重要性を語っている、「知りたい情報」という目的に対してストレートに答えが見つかるオンラインの”検索”という行為と違って、生身の”旅”では「偶然」というノイズが入り込む。
偶然見かけた面白そうな施設やイベント、美味しそうなお店、などなど。そうした偶然のノイズを楽しむためには、あらかじめ予定をギチギチに詰めるよりも、自由時間のバッファを持たせた方が良かろうと思った。
スケジュールが決まり、旅の準備は整った。
それでは、いざ出発(出勤)!
・・・。
・・・・・・。
出張先でも無事に何事もなく仕事を終えました。おつかれさま!真面目に労働してえらい!
【大阪へ移動、チェックイン】
仕事を終え、早速大阪へ向かう。
この日の予定は大阪へ移動し、チェックインして、梅田スカイビルの中にある中華屋さん『燦宮(サングウ)』で夕飯を食べること。
事前の検索によって、ホテルは大阪エクセルホテル東急を予約していた。まずはここへチェックインするために、新幹線で新大阪駅に到着後、御堂筋線で本町駅へ移動する。
初めて乗る路線から外を眺めるのは楽しい。車窓から見えた夕日が綺麗だった。
本町駅へ到着後、徒歩5分程度で大阪エクセルホテル東急に到着。
(...こ、この通路知ってるぞ!これは、ポケットモンスター”エメラルド”の殿堂入りの時に通る通路だ...!)
ホテルの部屋は広い方が好きなのでツインにしたけど、泊まるのは私1人です。
荷物を置いて身軽になると、ちょうどお腹もすいてきた。いざ、美味しい中華屋さん『燦宮』が入っている梅田スカイビルへ向かうため、ホテルを出る。
(...こ、この通路知ってるぞ!)
【中華屋さん『燦宮』で夕飯を食べる】
梅田スカイビルの39階へ上がり、『燦宮』へ。予約していたのですぐに席に案内された。
すご。
梅田スカイビルは40階建て(+屋上)で、39階にある『燦宮』はほぼ最上階に位置するレストラン。この日は天気も良く大阪市街が一望できた。
こんなところで、私、今からご飯を食べるの......?本当に、今日はこれに見合う仕事をしてきたのか......?
本日はコース「燦寧(さんねい)」を予約。前菜、スープ、メイン、ご飯もの、デザートと、美味しさのボス連戦みたいな素敵なコース。私はちゃんとした中華のコースを食べるのは今回が初めて。
ちなみに私が今日まで食べてきた中華料理の中で、好きなメニューの筆頭は「バーミヤンラーメン」です。
本日のメニューはこちら。
ホワオ。
こんなコースをご褒美にしたら、合宿免許だって一泊で取れそうだ。
「燦宮特性前菜盛り合わせ」に始まり、スープ、メイン、ご飯もの、デザート。海の物も山の物も、まさに中華の美味しさが楽しめる素晴らしいコースの予感。
それでは、コース「燦寧」でいただいたお料理の数々を連投していきます。
全部美味しかったけれど、特に右手前に置いてある、ごん太いサーモンから葉っぱが生えている料理が盛り合わせの中で一番美味しかった。
上手に写真が撮れなかったけど、スープの下に、想像してた3倍くらいの量の蟹とフカヒレが入っていた。フカヒレって初めて食べたのだけど、独特の歯ごたえと甘みがあって美味しい。もしファミレスのスープバーにこれが置いてあったら、これだけで一食済ませられるくらい満足感が得られる味だった。
アワビです。大きくぶつ切りにされていて、キノコやチンゲンサイと一緒に炒められていた。私の馬鹿舌では、アワビの食感なのかキノコの食感なのか判断できないのではないかと心配だったけど、アワビのうまみの存在感が強くて美味しかった。
これだけの種類の山の物たちと一緒に炒められているのにも関わらず、自分を主張できるアワビはえらい。
私は北京ダックも今回初めて食べたかもしれない。
北京ダックが春巻きの皮みたいなのにくるまれて、キャベツとえびせんを枕にして寝ている。
私も寝るときは掛け布団を頭まで全部かぶってミノムシみたいになって寝る派なので、この北京ダックとの相性が悪いはずが無い。北京ダックの濃いタレの味が、薄味の布団たちと混ぜ合わさって、脂っこく感じることなく美味しく食べられた。
写真だとわかりづらいけど、左側のネギの下にでっかいイセエビの肉が隠れている。
赤は食欲を増進させる色。イセエビも、茹でられた時に赤色じゃなくてもっと気持ち悪い紫と青と緑のマーブル模様なんかに色が変わっていれば、人間の餌食になることは無かっただろうに。
私はエビが大好物。今回のコースを食べていた時間の中で一番、口と脳みそが幸せだったかもしれない。
最初のメニュー一覧では、ここは「チョイス 麺・御飯」と書かれていて、その下に3つ書かれている「広東風五目炒飯」、「五目あんかけ焼きそば」、「細切り葱のスープそば」の中からどれか1種類を選ぶことができる。私は炒飯を選んだ。
でかいエビ。私の中では、中華の美味しさはエビのでかさに比例することになっている。中華屋さんでエビが出てくるときにはいつだって「エビ、でかいといいなぁ」と思っている。この炒飯のエビは、その期待に十二分に応えてくれた。
中華に期待するデザートの全部だ。
マンゴープリン、ごま団子、パイナップルとブラッドオレンジ。
メニュー一覧では「デザートプレート」とだけ書かれてて、具体的に何がデザートとして出てくるかは書かれていない。でも、「ごま団子」と「マンゴープリン」は、中華のデザートの定番で、私もこれが出てきたらいいなぁと思っていた。
無理だろうと思いつつ、ほんのりの期待を残して回したイベント10連ガシャで、欲しかったSSRが両方手に入った気持ちだ。
シアワセ......。
お腹いっぱい食べたのに、なぜか満腹の気持ち悪さは全く無くて、お腹の中が完璧に整った気分になった。
中華はやっぱりスタミナがつく。
”検索”は、私と、こんなに美味しい中華料理とをつないでくれたので、やはり素晴らしい。
こちらは『燦宮』のHPです。店内はすいていたけれど、バシャバシャと写真を撮るのがお店の素敵な雰囲気的にはばかられたので、店内全体の雰囲気はこちらから感じてください。素晴らしいお店でした。
そういえば、「梅田スカイビル レストラン」で検索したときに、梅田スカイビルのフロアマップを見たのだけど、この『燦宮』の上の階が「空中庭園」という名前の展望台になっているそうだ。
改めて「梅田スカイビル 空中庭園」で検索してみると、この期間は「天空の白い森で過ごすクリスマス」というイベントをやっていることが分かった。なにやら面白そうだ。
素晴らしい中華が次々運ばれてきてびっくりしているお腹を休めるためにも、ちょっとゆったりしに展望台へ行くことにした。
エスカレーターで40階へ。
私が行った時間では、ひとけの無い白い森にたくさんの動物たちがいた。
この可愛らしい動物たちは、切り絵作家の早川鉄兵氏によって生み出された動物たち。
空中庭園からのガラス越しに見える大阪市街の夜景。この日は本当に天気が良かった。『燦宮』から見えていた方面とは別の方面の夜景が見られて、また印象が違っておもしろい。
私が空中庭園を検索していなければ、目にすることが無かった素晴らしい夜景。検索窓から除いたネットの世界が現実になる瞬間は、たびたび不思議な気持ちに包まれる。
その不思議な高揚感のままこの日はホテルに帰った。
【『絹谷幸二 天空美術館』を鑑賞する】
旅、2日目の朝。
私は再び梅田スカイビルに向かい、今日は27階にある「絹谷幸二 天空美術館」へと足を運んだ。私にとっては、ここへ来ることが今日のメインだ。
昨日夜の写真を取り忘れたけれど、真正面に見えるのが梅田スカイビル。でかい。
でかいなァ。
梅田スカイビルは、2008年に英誌「The Times」の「世界の建築TOP20」に、唯一日本の建築物として紹介されている。スペインのサグラダファミリアや、ギリシャのパルテノン神殿、インドのタージマハルなどに並んで紹介されるという快挙。
建物全体を覆うガラスのカーテンウォールは、時間と共に移り変わる空を写し込む。そして梅田スカイビルにおいて最も特徴的なのが、イーストタワーとウエストタワーの2つに分かれている左右のビルを、中央の展望台と、その間を斜めに走るエスカレーターがつないでいること。
この珍しく、魅力的な建築様式が世界的に評価されたようだ。
今回の私のお目当ての場所、「絹谷幸二 天空美術館」は、タワーウエストの27階にある。
来ました。やっぱり本物を前にすると嬉しいな。
《弱いつながり》でも、事実の絶対的な証明となりうる”モノ”の重要さは語られていたけれど、やはり百聞は一見にしかずということか。
”美術館”は”Art Museum”に訳されて表記されるけど”天空”は”Tenku”のまま表記されるんだ。
「絹谷幸二 天空美術館」は2016年に開館した新しい美術館で、今年の5月にBS日テレの「ぶらぶら美術・博物館」で放送されていて、そこで初めて見た絹谷幸二さんの「祝・飛龍不二法門」の魅力に一瞬でとりつかれ、いつか絶対観るぞ!と思っていた。
絹谷幸二さんの作品の一部はこちら。
27階はフロアの全てがこの美術館なので、エレベーターを降りるとそのまま正面が受付になっている。
絹谷幸二さんは御年77歳になられる壁画家。古典的なフレスコ画の画法を学ばれ、前述のリンクのとおりカラフルでエネルギッシュな作品を、現在も現役で制作されている。
私が絹谷さんの作品を好きな理由の一つに、絵画に限らない様々な表現方法を模索されていて、作品を作成されていることがある。
例えばこの美術館の特徴の一つは、絹谷さんの作品を3D映像にした映像作品があること。3Dメガネを掛けて約5分間の映像作品を2つ観ることができるのだけど、まるで作品の中に入ってしまったかのような臨場感あふれる体験ができる。
この3D映像作品が想像の10倍くらいすごくて、元々の壁画がダイナミックでカラフルな作品なので、映像になるとより迫力が増す。
「平面は立体を希求する」とは絹谷さんご本人の言葉で、映像作品や彫刻作品など、様々な表現方法に現在も精力的に取り組まれている。
私が観たかった「祝・飛龍不二法門」は、展示の一番最初のエリア、”シンボルゾーン”にこの一点だけが展示されていた。
満たされたワ......。
展示室を抜けると、ミュージアムカフェ『天空カフェ』につながっている。
梅田スカイビルの27階なので眺めが良いし、カフェの雰囲気もおしゃれ。
椅子も透明でかっこいい。
天空カフェでは紅茶とバニラアイスを頼んだのだけど、このバニラアイスが特別美味しかったのでおすすめです。これぞ、インターネットではわからない実物の”モノ”に触れてこそ知ることができる情報。
天空カフェの詳細
作品を鑑賞し、カフェで休憩したあとは、ミュージアムショップを周った。絹谷幸二さんの作品のポストカードや、エコバッグやマグネットなどたくさんのグッズが販売されている。
その中に、絹谷幸二さんの自伝が目に入った。絹谷さんが73歳の時に書かれた、これまでの半生の自伝。
私はすっかり絹谷幸二作品の虜になっていたので、偶然見かけたこの自伝も迷うこと無く買った。このほかに、何枚かのポストカードも買った。もちろん、今回一番見たかった「祝・飛龍不二法門」のポストカードも忘れなかった。
この日に購入した絹谷幸二さんの自伝については、後日、私のnoteで読書感想文を書いている。
【梅田スカイビル周辺で昼食】
『絹谷幸二 天空美術館』を出てきた頃にはすっかりお腹もすいていた。やや遅めの昼食を食べるため、私は再び「梅田スカイビル レストラン」で検索する。
地下一階にレストラン街があるようなので、そこをぶらぶらしてお店を探すことにした。”検索”でレストランの場所は知ることができたので、具体的にお店をどこにするかは現場のノイズに任せよう。
「地下飲食街」と書かれた真っ赤な看板を見つけた。レストラン街はこちらで間違いなさそうだけど、この看板、なんだか怖い雰囲気すら感じるな。階段を降りた先が突然異世界みたいな独特な世界につながっていたらどうしよう。おそるおそる階下へ降りる。
独特な世界につながっていた。
階段を降りると、そこは独特な昭和風の世界につながっていた。そしてお昼を過ぎた時間だからなのか、人がいない。ひとけの無さがこの場所の独特な空気をさらに際立たせる。
この場所は『昭和レトロ商店街 滝見小路』というらしい。
昭和の町並みが再現され、数々のレストランに加え、お土産屋さんや美容室も立ち並んでいた。
私は本物の昭和のこういった風景を見たことは無いけれど、どことなく懐かしい気持ちになった。見たことが無いのに懐かしいと感じるのはなぜだろう。
ここを歩いていると、まるでご先祖様の記憶をたどっているような、日本らしい...懐かしい気持ちに......
突如インド。
ご先祖様の記憶をたどっていたら、突然でっかいインドの国旗に衝突したのでびっくりした。
ここは滝見小路にあるインド&ネパール料理の『ナマステ タージマハル』。
昭和風の町並みにあまりにこの国旗が馴染んでいなかったので、思わず「インド料理 日本 歴史」で検索してしまった。新たな検索ワードだ。
1927年に新宿の中村屋がメニューに「カレー」を追加したのが日本におけるインドカレーの始まりで、現存する日本最古のインドカレー専門店は、1949年創業、銀座にある『ナイルレストラン』だそうだ。
ということは、昭和の町並みにインドの国旗が掲げられていたことは十分に考えられる。馴染んでないとか言ってごめんね。
昼食は結局、この滝見小路を抜けた先にある和食屋さん、『和心旬菜』で食べることにした。
店内はすいており、1人だったので手前のカウンター席に案内された。
席の真正面は、梅田スカイビルの外。紅葉がうっすらかかり、天気も良いので気持ちが良い。
メニューを眺めて、うなぎが食べられる「釜飯御膳」を食べることにした。
ひつまぶしの釜飯に、お刺身、天ぷら、うどん。これだけ付いて1,500円。安いし美味しかった。自然光が入って明るい店内なので、1人で来ても複数人で来ても気分良く食事ができそう。
!?
気がつくと、さっきまでただの池だったのに、食べてる間に上の石段から水が流れ落ちてきて滝になっていた。時間差で流れたり止まったりする滝なのか。自然の信号みたいだ。人工だけど。
『絹谷幸二 天空美術館』を鑑賞して、周辺でお昼を食べるという目的は達成された。帰りの新幹線までまだ数時間の猶予がある。元々のスケジュールでもバッファを設けていたし、少し検索でもしながら周辺をぶらぶらしてみよう。
【大阪駅周辺をぶらぶらする】
帰りの予定もあるので、大阪駅からあまり離れることはできない。現在は梅田スカイビルの1階。近くでめぼしい観光できる場所が無いか、検索してみることにする。
「大阪駅 周辺」。そうそう。別にこういう表層だけを撫でるような検索ワードでもいいんだ。《弱いつながり》によれば、例え表層を撫でるだけのような”観光客”の態度で旅に向かい合ったとしても、大切なことはその場所へ行き、”モノ”に触れて考えを巡らせることだから。
大型のショッピングモールなんかがヒットする。その周辺は本当に大阪駅の隣という感じらしいし、いろんなお店もあるらしい。数時間をつぶすにはちょうどいいかもしれない。
私はひとまず、梅田スカイビルから大阪駅へ帰る形で足を運ぶことにした。道中、なにか面白いモノにでも遭遇できればいいな。
早速、数分歩いたところでイベントスペースのようなところを見つけた。
梅田スカイビルからほど遠くない芝生スペースで、比較的最近できたスペースらしく、周辺では至る所で工事が行われている。「入場無料」「入場自由」の看板が立っていたのでひとまず入ってみることにした。
ここにも人はほとんどいなかった。
不思議なビニールハウス。
ビニールハウスの入口に「中に入ってソファに座って写真を撮れば”映え”間違いなし!」というようなポップが掲示されていたのだけど、中に座って自撮りするより、外から撮った方が「ビニールハウスの中のソファに座ってます」というのがわかりやすく伝わって映える気がする。不思議だ。
キャンドルのテトリスブロック。
不思議な場所だった。今回の旅では、ひとけの無さに引き立たされる不思議さを経験することがたびたびある。
そうだ、「大阪 不思議 スポット」で検索してみよう。
そうそう、こういう検索結果を求めてた。やはり”検索”は素晴らしい。
結構いろんな珍スポットがあるんだな......ん?
これこれ。こういうのがいいんだよ。
Google Mapsで見てみても、どうやら私が今いる場所からもそう遠くないらしい。
こんなに大きい施設が、珍スポットマニアが口を揃えて言うようなスーパーとは。期待が高まる。
全国に支店を展開してる大手のお店じゃなくて、その地域にしか無いお店を巡るのはきっと楽しいに違いない。
地図に従って歩みを進める。
道中で一風変わったモニュメントを見つけた。
”街なかアート”というやつだ。これから向かう不思議な場所への道中に相応しく、このモニュメントも随分不思議な形をしている。
台座の部分に作品名と作者が書かれているようだ。
...。
これから向かう先が本当に行って良い場所か不安になってきた。先ほどの検索結果が頭をよぎる。
”訪れるなら自己責任”...かぁ......。
しかし、こうして今日この日、観光をしていなければ、不思議スポットなんて検索はしなかったに違いないし、せっかく新しい検索ワードで得られた情報なのだから、行ってみたいというのが正直な気持ち。
私は行く先への警告を鳴らすかのように立っていた「分断された人体」を横目に、例のスーパーへと向かった。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
※一部画像を加工しています。
まじ...?
スーパーなのか...?これは。
確かに商業施設みたいな大きさはあるけれど、見るからにおどろおどろしい雰囲気が漂っている。
※一部画像を加工しています。
やや引きで撮るとこんな感じ。
電線に乗ってるカラスが怖すぎる。カラスの餌になるようなものが転がってるってことでしょ?
どうやらさっき写真に撮ったところはスーパーの裏口部分だったらしい。周囲をぐるりと回ってみたら、反対へ回ったところに正面入口らしいところがあり、意外なことに入場待ちの行列ができていた。
こんな場所でも人がたくさんいると落ち着く。
※一部画像を加工しています。
入場前に整理券が配られて、買い物をした後、帰るときにそれをカゴへ返す形式だった。入場時に検温され、手指を消毒し、1人に1つ小さめの買い物かごを与えられて中へ入るようだ。
人がいるとはいえ怖いなぁ。
自然と外部とのつながりを持ちたくて、ケータイに手が伸びてしまう。
え...。
卒塔婆とミイラになってる...。
一体いつからこんな表示になってしまったのか、ケータイの電波の表示は卒塔婆に、充電の表示はミイラの棺になってしまっている。私はもうスーパーの中なんてどうでもよくて、いち早く帰りたい気持ちになっていた。
そういう時に限ってちょうど列が進み、後ろの人たちに押し流されるようにして入店することになってしまった。
※一部画像を加工しています。
入店して最初にあったのがフルーツのコーナー。ちょうど一番手前にあったのがイチゴだったので、適当なパックを1つ手に取って急いでお会計へ。
気づくと並んでいる間に外は暗くなりかけており、そのまま来た道を全力でダッシュして駅まで向かった。もしも日が落ちてしまったらこのエリアからはもう出られないような予感がした...。
【大阪から帰宅する】
慌ただしく新大阪駅でお土産を買い、時間通りの新幹線に乗り、帰路につく。
行きの時にも思ったけれど、岐阜の関ヶ原らへんは雪がすごく降っていて、ここだけ別世界だった。
...そういえば、あの不思議なスーパーマーケットの店名を確認してくるのを忘れた。
梅田スカイビルのすぐ近くだったことは覚えてるから、Google Mapsで再度「梅田スカイビル」で検索して店名を確認する。
あれ......?
確かに梅田スカイビルと大阪駅の間にあったはず。見間違えるはずは無い大きな建物が......。
・・・。
・・・・・・。
私は何も見なかった。私は何も知らない。
家へ着き、荷物を片付ける。
そういえば、例のスーパーでイチゴを買ったのだった。たった今、自分は何も知らないふりを決めたところなのに。
でも、ただでさえ新幹線で運んだのだから、これ以上イチゴを痛ませるわけにもいかない。早く食べてあの変な体験は記憶から消そう。
とちくるい...かぁ......。
このイチゴは私が全て美味しくいただきました。
【旅を終えて】
私が初めて大阪へ行った子供の時にはUSJにしか行かなかったので、限られたエリアだけだったとはいえ、大阪市街を旅した今回が、ほとんど初めての大阪旅行。
Googleの履歴を見直すと、私がこの1日半でwebページを遷移した回数は192回。そして参照してるページのほとんどが、今回大阪へ訪れることが無ければ検索することが無かったに違いない、「新しい検索ワード」たちだ。
旅によって私は多くの「新しい検索ワード」に出会い、これらの検索ワードたちによって、私は美味しい中華を食べることができ、大好きな画家の作品を間近に見て感動することができた。
大阪について久しぶりの”ネットサーフィン”をすることで、今回訪れることができなかった多くの観光名所を知ることもでき、それらは「次来たときにはここへ行きたい」という次回のモチベーションになった。
きっと私はまた、世の中が落ち着いたらすぐに大阪へ、そしてまだ行ったことが無い土地へ旅をするだろう。
帰路の時間の中で、私は《弱いつながり》に書かれていた「旅における時間の重要性」について実感させられていた。
《弱いつながり》では、オンラインで現地を疑似体験することと、実際に旅をして現地を体験することを、「思考の時間」という観点で比較している。
例えばGoogleストリートビューで、検索結果の中にある現地の写真を観る。そして「なるほど」と知りたい情報だけを知ってパソコンを閉じれば、そこは現地ではなく自室で、私の旅はそこから日常に戻る。
新たな興味から検索ワードを生み出し、検索窓に打ち込む体験は、もともと知りたい情報だけにダイレクトにアクセスする”検索”だけでは、なかなか生まれづらい。少なくとも、現地に向かう旅と比べれば少ないはずだ。
一方、現地へ出かける旅である。
言うまでもなく、旅には時間がかかる。近場であっても数時間、海外であれば24時間以上かかることもある。
旅を終え、自宅に着くまでの数時間の帰り道。車の中で、電車の中で、飛行機の中で、あるいは船の中で過ごすその数時間の時間に、それまで観てきた景色や食べ物、体験を思い出さない人はいないだろう。今の私もそうだ。
体験を振り返り、それらの情報を反芻するうちに、新たな興味、すなわち新たな欲望が芽生えることがある。
訪れたあの場所の歴史をもっと知りたい。偶然入った商業施設で売っていたあの商品、オンラインで買えないかな。ちらっと見かけてメモしたあの作品、あの作者はほかにどんな作品を作っているんだろう。
旅には”ノイズ”が含まれる。それは《弱いつながり》でも度々語られていて、私も今回大いに実感した旅の醍醐味だ。
私たちは目的をもって検索窓に検索ワードを入力する。そして目的である情報が得られれば、そこで旅は終わる。
検索窓から得たい情報への道は最短距離に近くまっすぐで、検索エンジンによって関連の少ない情報は排除されてしまうので、検索してから情報にたどり着くまでに、ノイズは入りづらい。
だが旅は偶然というノイズが常に入り込む。
暇つぶしにちょっと入ってみた場所での出会いにこそ、あるいは実物の「モノ」を見て感じる情報にこそ、新たな検索ワードを生むきっかけは眠っている。
しかし今、私たちにはその「旅」をする機会が失われつつある。
それは言うまでもない事情によるもので、怒っても悲しんでも仕方がない。まさに「仕方がない」としか言えない状況にある。
《弱いつながり》が刊行されたのは2014年7月のこと。当然いまの世の中のような状況になることは想定されていない。
「旅」を失いつつある私たちが、「かけがえのない私」になるために、新たな検索ワードを手にするためにはどうするべきか。
私は、その答えの一つは、既にこの本書を取った時点で出ていると思う。
・読んだことのない本を読んでみる。
・聴いたことのない音楽を聴いてみる
・観たことのない映画を観てみる。
・食べたことのない料理を食べてみる。
旅は出会いであり、その出会いは私たちのごく身近に無数に転がっている。
ひとつひとつの出会いを旅と認める意識がある限り、私たちが旅を失うことはない。
【お知らせ】(ほぼ毎日更新)日々の日記をつけてる"note"のリンクをメニューバーに追加しました。
10日くらい前から、"note"で日記をつけ始めました。
まじの日記です。
こちらのブログみたいに広告収益化もしてないし(そもそも広告とかないよね?)、書くこともテーマレスで取り留めないし、文章もほとんど見返さずに練らずに書いているし(ブログの文章がきちんとしてるかはともかく)、まじまじのまじに日記です。
でも、せっかく書いてるし、自分のためというよりかは外部の方向けの語り口で書いてるので、ブログにもリンクを載っける程度はしてていいかなと思ったので、ブログのページ上部のメニューバーに「NOTE」を追加しました。
ここです。(スクショはスマホ画面です)
ここをタップしていただくと、noteに飛びます。
こんな感じ。
言ったでしょ。まじまじのまじにただの日記だって。
もしよかったら覗きに来てね。